現代日本〈映画-文学〉相関研究会

Studies in Correlation between Modern Japanese Cinema and Literature

ワークショップ「川端康成作品の映画化をめぐって」のお知らせ(終了)

2014年10月29日更新

盛況裡に終了いたしました。

TABLE RONDE
QUELQUES EXEMPLES CÉLÈBRES
D’ADAPTATION AU CINÉMA
DE L’OEUVRE DE KAWABATA

Samedi 25 octobre · 14h-18h
Table ronde avec des spécialistes japonais
de l’oeuvre de Kawabata
suivi de la projection de Pays de neige
de Shiro Toyoda

Petite salle

Entrée libre
Traduction consécutive

Table ronde

14h Présentation des intervenants
par Miharu Nakamura

14h10 Miharu Nakamura (Univ. du Hokkaido)
Quelques particularités des adaptations
cinématographiques de la littérature
de Kawabata – autour de Pays de neige

14h40 Akiko Miyamoto (Univ. de Waseda)
L’écriture scénaristique : la genèse
de Monsieur Merci

15h20 Miyoko Shimura (Univ. de Nishogakusha)
Adaptation et remake : les deux versions
de Nuée d’oiseaux blancs

15h50 Miyuki Yonemura (Univ. de Senshu)
À propos de l’animation adaptée
de La Danseuse d’Izu

Conclusions et discussion

16h30 Shigemi Nakagawa (Univ. de Ritsumeikan)
Une réflexion sur Kawabata et le cinéma
de genre art et essai

16h45 Discussion avec Shigemi Nakagawa,
Mathieu Capel (critique de cinéma),
Cécile Sakai (spécialiste de littérature
moderne japonaise, Univ. Paris Diderot)
et Fabrice Arduini (Maison de la culture
du Japon à Paris).

Projection de Pays de neige de Shiro Toyoda
17h50 Présentation du film
par Miharu Nakamura

18h Projection

ワークショップ「川端康成作品の映画化をめぐって」
【報告】14:00-16:20

14:00 ごあいさつ
北海道大学大学院教授 中村三春

14:10 川端文学と映画の特性 ―『雪国』を中心として―
北海道大学大学院教授 中村三春

14:40 脚色の方法 ―「有難う」の映画化をめぐって―
早稲田大学助手 宮本明子

15:10 休憩(10分)

15:20 ふたつの『千羽鶴』 ―アダプテーションとリメイクをめぐって―
二松學舍大学非常勤講師 志村三代子

15:50 名作アニメとしての脚色をめぐって ―「伊豆の踊り子」を対象に―
専修大学准教授 米村みゆき

16:20 休憩(10分)

【総合討論】16:30-17:30
16:30 基調報告 芸術ジャンルと評論から川端的映画を考える
立命館大学教授 中川成美

16:45 ディスカッション
ディスカッサント マティウ・カペル(映画批評) セシル・坂井(パリ・ディドロ大学教授) ファブリス・アルデュイニ(パリ日本文化会館

17:30 休憩(20分)

【上映会】17:50より 豊田四郎監督『雪国』
17:50 映画紹介(中村三春)
18:00 上映開始

(発表要旨は「続きを読む」をクリック)



【発表要旨】

川端文学と映画の特性 ―『雪国』を中心として―
中村三春

 作家・川端康成は『狂つた一頁』(1926)の脚本執筆と撮影に携わったことを 皮切りとして、生涯にわたって映画作品に原作を提供し続けた。だが川端の小説は、省筆(ellipse)や換喩(metonymie)によって出来事や事態を暗示するものであり、また物語は隠喩(metaphore)や寓意(allegorie)に富み、実はこれを映画化するのは難しいようにも思われる。代表作『雪国』はこれまでに二度、1957年と1965年に、それぞれ豊田四郎監督と大庭秀雄監督によって映画化された。いずれも原作に忠実と謳っているが、必ずしもそうとは言えない。特に、豊田監督作品には、生きる女性の立場に寄り添う映画作りを一貫して進めたこの監督ならではの特徴が現れており、それはまた戦後日本の文芸映画全般の特徴にも繋がるだろう。川端の文学と映画とはどのように交錯するのか。その観点から、主な作品群を概説してみたい。

脚色の方法 ―「有難う」の映画化をめぐって―
宮本明子

 1935年、成瀬巳喜男との対話に、川端康成は「映画は元来短篇小説的である」と述べている。そして、映画の素材としては、純文学や短篇戯曲の方が、流行の通俗長篇小説よりも「より多く監督自身を生かす」と述べている。映画化された川端の著作のなかでも「有難う」(1925年12月)は、短篇よりも短い掌編小説であり、原稿用紙にしてわずかに六枚程度でしかない。山道をゆく乗合自動車を舞台に運転手と乗客の母娘を登場させているのに対して、映画では人物、語り、物語内容まで大幅な脚色が試みられている。そのひとつに、原作で娘が座る運転手のすぐ後ろの席が、映画では「黒襟の女」という女性に占有されていることが挙げられる。このために映画は、娘をめぐる運転手、乗客ら複数の視線が交錯する様相を映し出し、最後に娘にその席が明け渡されるまでの葛藤の劇として読める。本発表では、戦前期の川端の著作と映画とのかかわりを概観した上で、清水宏脚色、監督映画『有りがたうさん』(1936年)に試みられた脚色の方法を、他の清水宏監督作品をふまえ検討してゆく。

ふたつの『千羽鶴』 ―アダプテーションとリメイクをめぐって―
志村三代子

 映画『千羽鶴』は、1953年と1969年に二度公開されており、1969年版は、川端康成ノーベル文学賞受賞記念として製作された。1953年の吉村公三郎監督版では、菊治を森雅之、ちか子を杉村春子、太田夫人を木暮実千代が演じており、1969年の増村保造監督版では、菊治を平幹二朗、ちか子を京マチ子、太田夫人を若尾文子が演じている。両作品が興味深いのは、同じ新藤兼人脚本の作品であるにも関わらず、映画監督と俳優の個性によって、全く違う様相を呈していることであり、たとえば、物語は中盤まで同じ展開で進んでいくが、吉村版では太田夫人の自殺でほぼ終了するのに対し、増村版では太田夫人の娘・文子を巻き込んでいく。さらに、原作において重要な役割を果たす志野茶碗のゆくえも、それぞれの解釈により相違している。発表では、監督と俳優の個性が、いかにして原作と脚本を換骨奪胎していったのかを、1953年版ではアダプテーション、1969年版ではリメイクという観点から考えてゆきたい。

名作アニメとしての脚色をめぐって ―「伊豆の踊り子」を対象に―
米村みゆき

 アニメ文学館シリーズの『伊豆の踊子』は、1986年4月から12月の計35回にわたって日本テレビの30分の枠で放映されたテクストの一つである。このアニメーション映画が注目される理由は、いくつかある。まず、文学と映像の相関関係でみるとき、80年代後半は日本近代文学の「不朽の名作」を原作としたアニメーション作品が数少なく製作されており本作もその一つであること、それは新潮文庫および金の星社から「アニメ名作」シリーズとしてアニメの画像と平易な文章で活字化されている点である。さらに映像史の観点から、後にジブリを設立する高畑勲宮崎駿の仕事として着目された「世界名作劇場」の影響、継承の側面が見受けられること、本シリーズにはプレテクストとして映画(実写)がある点である。発表では、どのような観点が「名作」として認識されていたのか、アニメーション映画ゆえの脚色と教育メディアとしての文脈において考察する。